【落ちるに落ちれない、上がるに上がれない】『高学歴難民』の書評・名文まとめ

誰もが羨む『高学歴』

だと思う。低学歴の僕すら思う。有名進学校、難関大学卒業。高ければ高いほど良いとされる「学歴」だけど、高いところに到達したからこそ着地が難しくなっているのか、高学歴だからこそ感じるジレンマに苦しみ、負のスパイラルに陥いり、じわじわと絶望していく様子が赤裸々に語られていたのが「高学歴難民」だった。

 

生まれながらの属性や家庭環境といった、自分ではどうしようもない問題で困窮に至った人たちは、自己責任を否定し、社会が悪いと堂々と主張できるでしょう。それに比べ、ただ、人生の選択を間違えただけの(高学歴な)僕は、自分を責めるしかないのです。

「栗山さんは甘い!
落ちるところまで落ちていない!」

と社会活動の現場ではいじめられました。

落ちるに落ちれない、上がるに上がれない…

無敵にもなれない僕こそ最弱なのです。

引用:第一章 博士課程難民

 

 

というワケで、今回は「高学歴難民」という本について。あ、記事本文では随所にネタバレや本文の引用もあるので、気になる方はここらでブラウザバックしてね。

 

 

 

「高学歴難民」
面白かったポイント

学歴があれば「勝ち組」なのか?

月10万円の困窮生活、振り込め詐欺や万引きに手を染める、博士課程中退で借金1000万円、ロースクールを経て「ヒモ」に、日本に馴染めない帰国子女、教育費2000万円かけたのに無職……

「こんなはずではなかった」
誰にも言えない悲惨な実態!

引用:講談社BOOK倶楽部「高学歴難民」

 

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本書の内容

  • 序章 犯罪者になった高学歴難民
  • 第1章 博士課程難民
  • 第2章 法曹難民
  • 第3章 海外留学帰国難民
  • 第4章 難民生活を支える「家族の告白」
  • 第5章 高学歴難民が孤立する構造

からなる本作。

 

教育や雇用をめぐる社会的議論を展開することではなく、高学歴難民やその生活を支える家族の視点から、教育の意義や社会の課題、そして個人の幸福について考えるコトを目的にされており、

さすがにフィクションっぽいんだけど…

と思わざるを得ないような、分かりやすい転落人生が多かった。

 

この国は大丈夫か…30代男性「高学歴難民」が「月10万困窮生活」の末に迎えた「驚きの末路」

 

 

高学歴コンプレックス

 

低学歴の人よりも高学歴だからこそ強く感じる学歴コンプレックスが存在することについても学べた「高学歴難民」。

 

高学歴であることがプライドを肥大させ、承認欲求を強くする場合もある(親から教育虐待をされた場合に多い)。学歴はなくとも社会的に成功し、影響力を得ている人々も多い。学歴止まりで実績がない人より実績で成功を収めている人々は確実に社会的に評価されている現実。それが痛いほど身に染みているからこそ、高学歴難民は辛い。

 

普通に考えたら、学歴がない・低い人ほど感じやすい気もする「学歴コンプレックス」。しかし、むしろ逆に高学歴だからこそ感じる「高学歴コンプレックス」が深刻であることが分かった。

 

 

その人には、その人の地獄がある

一見、

誰かの上に立ってないと気が済まない性分ってこと?

と早合点してしまいがちだけど、決してそうではなく、そういう価値観になってしまっていることを理解したいところ。子供のころから「とにかく勉強しろ」「この大学を卒業すれば幸せになれる」と周囲から言われ続け、貴重な青春時代を勉強に注ぎ込んだ挙句、残ったのが「学歴」だけ。

学歴だけ残っただけでも十分じゃん

と思わなくもないけど、なまじっか高い学歴があるからこそ

「こんな職業は自分には合っていない」

「子供の頃の自分を知ってる人が見たら失望されてしまう」

という見栄があり、負のスパイラルに入ってしまう。たまたま運が悪いだけで自分は有能である、という甘い現実認識の元には、これまでの努力・労力に見合った地位や身柄を渇望する「高学歴プライド」が潜んでいる。

 

捨てようにも捨てられない「高学歴」に苦しむ人がいることについて知れたのは大きな学びだった。

 

 

 

「高学歴難民」
印象的だった文章

「高学歴難民」を読んでみて「これは…」と思った部分、一節を備忘録として抜き出しておく。多くなり過ぎたので数を減らしたが、少しでも気になるフレーズがあれば是非、本編を読んでね。

 

 

高学歴難民の犯罪理由

これまで私が関わった高学歴難民による事件を見ていく限り、難民生活の長期化で疲弊した末、追い詰められて反抗に及ぶ「困窮型」と、満たされない社会的承認欲求を他人を支配することで見たそうとする「支配型」に分けられると考えています。

引用:序章「犯罪者になった高学歴難民

 

 

無償のセックス

彼のことは好きでしたが、無償のセックスは正直、苦痛でした。生活費の節約だと考え、しぶしぶ受け入れたのです。私にとってセックスは、経済的利益と切り離しては考えられないものになっていました。

引用:第一章 博士課程難民

 

 

おそらくやせ細って化粧っけのない私に欲望を向ける男性は少ないでしょう。私は昔から、着飾る女性や「女らしい女」たちに劣等感を抱いてきました。彼女たちは女のふりをしているだけで、裸で、本当の「女」で勝負しているのは私なのです。セックスワークで高収入を得られる自分を確認することが、劣等感を解消させているのかもしれません。

引用:第一章 博士課程難民

 

 

 

「行き止まり」の苦しさ、閉鎖感

これまで多々、挫折も経験してきましたが、そのたびに僕は「次がある!」と不安より期待を抱くことができたんです。

ところが、安定した仕事に就いた途端、「行き止まり」の苦しさ、閉鎖感に襲われるようになりました。このままでいいのかと思う反面、年齢を考えたらこの先にチャンスが訪れるとは思えない…。こんなはずではなかった…どこで迷路に迷い込んだのは、僕は出口がわからなくなっていたんです。

引用:第三章 海外留学帰国難民

 

 

親がいろいろ与えすぎてしまうことは─

息子は学ぶ意欲はあるのですが、働く意欲はないんです。その問題に親が気付くのに時間がかかってしまったんです。

(中略)

親がいろいろ与えすぎてしまうことは、子どもが自分で選択する能力を奪ってしまうことにもなります。子どもの教育に夢中になっているご両親には私たちの失敗を伝えてあげたいです。

引用:第四章 難民生活を支える「家族の告白」

 

 

行き止まりだと感じたら─

私は、誰も歩いたことのない道を開拓したいと思い続けてきました。それだけに、迷っても、行き詰まっても、誰に相談してもピンとくる答えは得られませんでした。暗闇の中で一筋の光となったのは、高学歴難民の先生の存在です。先生との出会いが原点なのです。

目的が達成されないまま時間が過ぎていくと、本来、何をするためにここにいるのかさえわからなくなってしまうことがあります。行き止まりだと感じたら、来た道を戻ってみることも大切です。

引用:第五章 高学歴難民が孤立する構造

 

 

 

総括:「高学歴難民」
読書レビュー

学歴は高ければ高い方が良い!

と、一度でも思ったことのある人は是非 読んでみてほしい「高学歴難民」だった。学歴が将来を保証するような時代ではなくなってきているのに、今までと同じように「学歴こそ至上」と考えてはいけないなぁ…と。

 

今 思い返したら、元職場でも「東京大学院卒」という肩書によって、

あいつ東大の院卒だけど仕事超できねぇよ

なのに給料高いってズルいよ

とか言われてる人がいた。高卒1割、大卒8割、大学院卒1割という職場環境。同じような仕事をしていても給料(特に残業代)が高いことを僻まれ、大卒連中から目の敵にされている大学院卒の人がちらほら目に入った。本人の能力不足は置いといても、少数派の「大学院卒」は妬みの対象になりやすいようだった。

 

 

生まれながらに貧乏で教育の機会を奪われてきた人々にさえ自己責任論が付きつけられ、必要な支援が後回しにされている現在。高学歴難民の事情にまで汲み取ることが出来る人は少ないと思うが、当記事に辿り着くくらいには心に余裕がある人ならば是非、高学歴でも苦しんでいる人がいることについて覚えておいてはいかがでしょうか。

 

 

それでは。

 

 

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