ずいぶん あけすけで露骨な本読んでるね…
と言われそうなタイトルの
「なぜオスとメスは違うのか─性淘汰の科学─」
という本。
先日、特にすることもなかったのでネットを徘徊してたら男女関係について(ほぼ確実に偏見で、赤裸々に本音で)書かれてたスレッドを見つけまして。さすがに現実離れしすぎていたので笑いながらスクロールしてたが、ふと
「なんでこんなモテない男が誕生してしまうんだ…?」
という考えが頭をよぎった。
で、無職の持つ有り余る時間を使って書店に行き、チラッと視界の隅に入ってきたのが「なぜオスとメスは違うのか」である。読んでみると、まぁ面白いこと…。ヒトの男女の交尾戦略やらを学ぼうと思いきや、その他多くの生き物が繰り広げる精子競争、メスの選り好み等、過酷で面白い生存方法や進化の歴史が学べた次第です。
というワケで、今回は「なぜオスとメスは違うのか」という本について。記事本文では随所にネタバレや本文の引用もあるので、気になる方はここらでブラウザバックしてね。
「なぜオスとメスは違うのか」
面白かったポイント
動物のオスとメスは驚くほどバラエティ豊か
動物には、たとえばクジャクやカブトムシのように、オスとメスで姿が大きく違うものがいる。現在では、こうしたオスとメスの姿や行動の違いがなぜ存在するのか、また、その違いがどのようにして生まれたのか、という視点から科学的アプローチが行われている。本書は、この分野の科学的知識を体系的かつコンパクトに解説する。
正直、専門外の僕には難しい内容もチラホラあったけど、それ以上に
「他の生き物も色々 考えてんだなぁ…」
「本能?遺伝子?とにかくすごいなぁ…」
と思えることが多かった。ヒトのオスとして、他の生き物のオス達の熾烈な生存競争には感情移入せざるを得なかった。あいつらだって辛いのか…、と。
発見が絶えない本だったけど、心に残ってるのは以下の2点でしょうか。
上位6%のオスしか交尾できないパーティ
陽キャがクラブで交尾相手を見つけるように、ある鳥類や哺乳類では、決まった土地を共同で使って求愛ダンス(求愛ディスプレイ)を行う種類がいるそうだ。毎年 同じような場所が使われることが多いそうで、その場所はレックと呼ばれる。多数のオスのところにメスがやってきて、オスを見定めて、交尾したり、つがいになる。
乱交パーティみたいなもん?
乱交っちゃ乱交なんだけど、レックを持つ種のほとんどでは、1匹から数匹のオスが交尾の機会をほぼ総取りするという残酷な現象が起こる。オスは複雑な装飾を備えてメスの注目を得ようと競い合うんだけど、なんと選ばれるのは同じオスが多い。あるコウモリでは、観察された交尾のうち79%はレック中の6%のオスによるものだったらしい。シロクロマイコドリでは全438回の交尾のうち、1羽のオスによるものが75%を占めることもあったそうだ。
で、
なんでこんなに交尾の回数に偏るの?
そもそもなんで一か所に集まるの?
といった疑問が浮かび上がり、それぞれ「ホットスポット説」「やり手オス説」などの仮説が立てられる。詳しくは本文で読んでほしいが、どういった利益があって同じオスとばっかり交尾をするのか?という問題に対する研究者の見解や実験手段が斬新で、おそろしくも面白かった。
メスの選り好み
動物の日常は過酷で、こなさくちゃいけない課題がた~くさんある。餌を求めて行動したり、捕食者から逃げたり、とにかくエネルギーが必要だ。しかし、『生存』も大事だけど生物としては『繁殖』も大事。そこでオスはメスを得るために、角を発達させたり尾を長くしたりと、性的装飾を成長させることがある。
そもそもなんで性的装飾を成長させることがメリットになるの?
極端に発達した性的装飾をもつことで、より健康で豊かな生活を送ること(≒良い遺伝子)の高い指標になりうるからである。人間で考えても分かりやすい。ただの腕時計でも十分だけど、あえてロレックスを付けることで、
よっぽど良い生活してる(十分な経済力がある)のね…!
となる(『見栄っ張りだな』と思う人もいるのは人間が社会的・文化的な影響を多く受けるからっぽい)。
イトヨという小型の魚は繁殖期には婚姻色といって体の色が変わる。イトヨの場合は赤くなる。寄生者がいるイトヨの場合は色を発達させることができないため、赤色が強い個体の方が健康であることの証明になり、結果的にモテることに繋がるそうだ。人間でもファッションに気を配れるヤツってモテるヤツ多いもんな。
このほかにも、
- なぜメスが選り好みをするのか?
という問題にはヒトのオスとして非常に興味深い仮説が多く、たいへん勉強になりました。実生活でも活かしたいところです。
「なぜオスとメスは違うのか」
印象的だった文章
「なぜオスとメスは違うのか」を読んでみて納得させられた部分、一節を備忘録として抜き出しておく。多くなり過ぎたので数を減らしたが、少しでも気になるフレーズがあれば是非、本編を読んでね。
遺伝子が進化の基本
遺伝子が進化の基本である。
しかし、ヒトの行動には遺伝子だけではなく、文化的、社会的な影響も大きい。したがって、行動生態学の考え方を容易にヒトに適応すると、時に優生学など間違った考え方を誘導してしまう。
性淘汰の理論は、一部のみを切り出すと誤解を生む可能性があるので注意。
性への情熱
18世紀には、性への情熱は、戦争への情熱と同様、野蛮で好ましくないとみなされてきたため、当時の哲学者の中にはそのような衝動の起源を突き止めようとした人もいた。有名な著述家であり学者でもあるジャン=ジャック・ルソーは、自然のままのいわゆる未開人が純粋で善良なものであって、下品な欲望は社会の発達にともなって発明されたと結論している。
性淘汰のプロセス
したがって、性淘汰のプロセスは、武器をもたらす雄間闘争と、装飾をもたらす雌の選り好みという2つで構成されている。
一夫多妻、一妻多夫、一夫一妻
性淘汰の理論によると、オスは複数回交尾をすることによって多くの利益を得ることができる。オどれだけメスを受精させられるかがオスの繁殖の肝である。よって一夫多妻の方が一妻多夫よりも一般的なことが多いのは、それが生物として理にかなっているからだそうだ。
前述したように、一般にオスは複数回交尾により利益を得るが、オスが子の生存のために協力することが必須の場合には、一夫一妻が進化しうる。鳥類では一夫一妻が広く見られ、ある程度の長い期間 2羽がつがいでいる種は鳥類全体の90%と推計されるが、これは子育てにオスの協力が不可欠という理由で説明できる。
反対に、一夫多妻や一妻多夫なんかの配偶システムを持つ種では、片親だけでほとんどすべての世話をこなせるようになってることが多いそうだ。例えばシギ・チドリなんかは、孵化した雛がすぐに歩き回って自力で餌を採ることができる性質(早成性)をもっているんだってさ。
他のオスとも交尾するメスの選り好み
他のオスとも交尾することで、交尾相手のどれかが自分の卵と相性のよい遺伝子を確実に持つ状況を作っているという考えもある。もしメスが最初の交尾相手を、子育てなどの直接の利益を与えてくれるかどうかを基準に選んでいるとすれば、そのような利益はあまり与えてくれないが、遺伝子的な質が高いようなオスとも交尾すれば、雌は自分の適応度(成熟した子をどれだけ残せるか)を最大化できるかもしれない。
(中略)
ある研究によれば、雌はつがい外交尾するオスをかなり選り好みしており、雌と長い期間にわたって絆を持ち続けるオスには、雌が1回きりのつがい外交尾をするオスとは違った特徴があるらしい。
霊長類が3色型色覚を持つようになった理由
動物は強い自然淘汰の作用により、捕食者の回避や食物の探索がしやすいように微調整された嗅覚、聴覚、視覚を進化させている。たとえば、霊長類が3色型色覚を持つようになったのは、緑色であふれた森の中で、栄養価の高い熟した果実や新鮮な植物を見つけ出すのに役立ったことが理由の1つと考えられている。
遺伝的な相性の良さ
どのメスにも求められるような単一のよい遺伝子型は存在しない。あるメスに好まれるオスがそのほかのメスには拒絶されることがあるし、逆にほとんどのメスに好まれるオスがあるメスからは拒絶されることもあるだろう。
メスは配偶者の候補のなかから遺伝的な相性のよさに基づいて選択する。メス自信の遺伝子型を最もよく補完して、子の適応度を高められる遺伝子を持つオスを選ぶはず、という仮説もあるようだった。
精子競争が精巣を進化させる
大きな動物ほど大きな精巣を持つと考えられる。
が、ゴリラは小さい。
これは、ゴリラでは一頭のオスが複数のメスを支配する繁殖グループだからだそうで、精巣を大きくする必要がないからである。一方ボノボではメスが複数のオスと交尾することから、メスの生殖管内に多くのオスの精子があることによって、激しい精子競争が起こる。よってボノボではより多くの精子をつくるために精巣が発達したらしい。
想像の通り、ボノボはあらゆる霊長類の中で、相対的な精巣サイズが最大の種である。ヒトは社会的な一夫多妻で、ゴリラとボノボの中間に位置する。ヒトは、ゴリラほどには精子競争の淘汰圧から解放されてはいないが、進化の歴史の中で、ボノボほどには精子競争が重要な役割を担うことはなかったと思われる。
配偶者防衛
男性が女性の活動を支配しようとする行動をとったり、女性の友人男性に向けて攻撃的な振る舞いをしたり、その他広い意味で性的な嫉妬と言える行動をとるのは、進化心理学者のデイビット・バスによれば、ある種の配偶者防衛である。
総括:「なぜオスとメスは違うのか」
読書レビュー
なんで男と女って違うんだろう?
と漠然と小学生のように純粋な疑問を持ったら是非、読んでみてほしい。内容は結構難しい。眠い時に読むと目が滑りまくって大変だったけど、とにかく興味深い生物の生存戦略で満ち満ちているので最後まで面白く読めたよ。
副題の『性淘汰』について考えると、
うっわ~~難しそ~~…
と身構えてしまうけど、割と僕達 人間が大切にしている考えとも関係してる部分も多い。貞節さ、パートナーシップ、子の世話、両性の外見と行動、そして男性と女性の利益が本当に一致するかどうか、etc…。
オスとメスの本質とはどのようなものなのか?
というような単純な答えは書かれてないけど、色々な生き物の生存競争や性淘汰の理解を通して、生き物の面白さや奥深さ等が知れるような塩梅になっていました。
それでは!